介護・障害福祉の経営に助成金・補助金を活用する方法
初心者向けにわかりやすく解説
介護事業・障害福祉事業を経営していると、「人材を採用したい」「職員を育成したい」「賃上げしたい」「業務を効率化したい」といったさまざまな課題に直面します。
こうした経営課題への対応には資金が必要です。しかし、すべてを自己資金だけで賄うことが難しい場合もあるでしょう。
そこで検討したいのが、国や自治体などが実施する助成金・補助金です。
「制度が複雑そう」「自分には関係ない」「申請しても採択されないのではないか」と感じている方も少なくありません。しかし、助成金・補助金は、制度の目的や申請のタイミングを理解することで、事業の成長や経営改善に活用できる可能性があります。
この記事では、これから介護事業・障害福祉事業を始める方や、初めて助成金・補助金の活用を検討する事業者に向けて、基本的な仕組みから具体的な制度、申請前の注意点までをわかりやすく解説します。

介護・障害福祉事業の経営で「使える助成金・補助金」を見逃していませんか?
助成金・補助金は、経営課題と結び付けて検討することが重要です。
助成金・補助金というと、「もらえるお金を探すもの」というイメージを持つ方も多いかもしれません。
しかし、本当に重要なのは、制度を先に探すことではありません。
自社の経営課題を整理することが出発点です。
たとえば、次のような経営課題があげられます。
- 職員の定着率を改善したい
- 非正規職員の処遇を改善したい
- 介護・福祉に関する専門研修を受けさせたい
- 賃上げと同時に業務効率を高めたい
- 新しい設備やシステムを導入したい
- 創業時の設備投資や事業運営に必要な資金を確保したい
介護事業・障害福祉事業は、人材の確保・定着や人件費、教育、業務効率化など、経営上の重要課題が多い業種です。そのため、雇用、人材育成、賃上げ、生産性向上などに関する支援制度と相性がよいケースがあります。
まずは「自社では何にお金が必要なのか」を考え、その課題に対応する制度がないかを探すことが大切です。
助成金と補助金の違いを知るところから始めよう
助成金と補助金は似ていますが、制度の仕組みや申請方法が異なります。
一般的に、助成金は、一定の要件を満たした場合に支給を受けられる可能性がある制度です。
主要なものとして、雇用保険事業(雇用関係助成金)があります。
一方、補助金は、申請内容について審査が行われ、採択された事業者が支援を受ける仕組みが多くなっています。
ただし、「助成金は必ずもらえる」「補助金は必ず採択されない」と単純に考えることはできません。
実際には、助成金であっても、細かな条件があります。
たとえば次のような条件が存在します。
- 事前に計画を提出する必要がある
- 対象となる労働者や経費に条件がある
- 一定期間内に申請する必要がある
- 労働関係法令を遵守している必要がある
- 必要書類を適切に保存している必要がある など
また、補助金では、助成金以上に以下のような様々な制限があり、それらを確認する必要があります。
- 公募期間
- 補助対象となる事業
- 補助対象経費
- 審査基準
- 補助率
- 補助上限額
- 実績報告
つまり、どちらも「申請書を提出すれば自動的にお金がもらえる制度」ではありません。
制度ごとに目的とルールがあることを理解することが、活用の第一歩です。
「何のためにお金が必要か」から助成金・補助金を探す
制度名から探すのではなく、経営課題から探すと制度選びがしやすくなります。
助成金・補助金を探すときに、最初から制度名を検索すると、多くの制度が見つかり、かえって迷ってしまうことがあります。
そこでおすすめなのが、次のように経営課題を整理する方法です。
人材を採用・定着させたい
採用した人材を定着させるための処遇改善や正社員化などが課題になります。
このような場合には、キャリアアップに関する助成制度などが検討対象になる可能性があります。
職員を育成したい
介護・障害福祉サービスでは、職員の専門性がサービスの質に大きく影響します。
資格取得、専門研修、業務に必要な知識や技能の習得などを検討している場合には、人材育成に関する助成制度が活用できる可能性があります。
賃上げと業務改善を進めたい
人材確保のためには賃金水準の改善が重要ですが、人件費の増加は経営上の負担にもなります。
そこで、設備投資や業務改善と組み合わせながら賃上げを進める制度が利用できるケースがあります。
設備・システムを導入したい
ICTや介護ロボットなどの導入、業務効率化のための設備投資については、国や自治体の補助事業が実施されることがあります。
このように、「自社に必要な投資は何か」から「その投資を支援する制度はあるか」という順序で考えると、助成金・補助金を経営に活用しやすくなります。
助成金・補助金は「申請すればもらえる」とは限らない
要件確認と事前準備をしないまま進めると、対象外になる可能性があります。
助成金・補助金の申請でよくある失敗が、「制度を見つけてから慌てて申請する」ことです。
例えば、取組着手前や完了後の手続など制度にごとに様々な要件があります。
- 計画を事前に提出しなければならない
- 交付決定前に契約や発注をしてはいけない
- 研修開始前に申請が必要
- 対象者の雇用形態に条件がある
- 一定期間の賃上げが必要
- 実施後に証拠書類を提出する必要がある など
つまり、お金を使った後に制度を知っても、支援対象にならない場合があるということです。
助成金・補助金は「知ってから申請する」のではなく、「何か新しい取組を始める前に、利用できる制度がないか確認する」という習慣を持つことが重要です。
活用したい助成金 ~キャリアアップ助成金~
非正規雇用労働者のキャリアアップや処遇改善を検討する事業者にとって、重要な制度の一つです。
キャリアアップ助成金は、パート・アルバイト・契約社員・派遣社員といった非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善に取り組んだ事業主を支援する、厚生労働省の雇用関係助成金です。介護事業・障害福祉業界は非正規雇用の比率が高い業界の一つであり、活用実績も豊富な助成金です。
例えば、「正社員化」「賃金規程の改善」「社会保険適用の促進」「短時間労働者の労働時間延長」などに関する取組について、制度上の要件を満たす場合には、助成対象となる場合があります。
もっとも多く利用されているのが「正社員化コース」です。
中小企業の場合、有期雇用労働者を正社員化した際の支給額は、対象労働者が重点支援対象者(雇入れから3年以上の有期雇用労働者など)に該当するかどうかで変わり、該当する場合は2期に分けて支給される仕組みです。
あわせて、障害のある労働者を正規雇用に転換した場合に手厚い支給が受けられる「障害者正社員化コース」も設けられており、障害福祉事業所での職員雇用にも関連性の高い制度です。
申請にあたって特に重要なのが事前準備です。
取り組みを開始する前日までに「キャリアアップ計画書」を提出していること、正社員転換の規定が就業規則に明記されていること、転換後6か月間の賃金が転換前より3%以上増額していることなどが要件となります。
支給申請にも「賃金支払い日の翌日から2か月以内」という期限があるため、スケジュール管理も欠かせません。
制度内容は年度ごとに変更されることがあるため、実際に取り組む前に最新の要件を確認することが重要です。
介護・障害福祉事業者にとっては、人材不足や離職率の改善を考える際に、雇用形態や処遇を見直すきっかけとして検討できる制度です。
活用したい助成金 ~人材開発支援助成金~
職員教育を「コスト」だけでなく「人材への投資」と考える事業者に適した制度です。
介護・障害福祉サービスでは、職員の知識や技能がサービスの質に直結します。
しかし、研修費用や研修期間中の人件費が負担となり、十分な教育を実施できない事業者もあるでしょう。
人材開発支援助成金は、従業員に職務に関連した教育訓練(研修)を実施した事業主に対して、訓練にかかった経費と、訓練期間中に支払った賃金の一部を助成する制度です。
介護事業所・障害福祉事業所であれば、職員向けの専門研修やOJTによる人材育成に活用しやすいのが特徴です。
介護事業者・障害福祉事業者が考えられる活用場面としては、「職員の専門知識・技能の向上」「新任職員の育成」「管理者候補の育成」「ICTやデジタル技術に関する教育」などがあります。
人材開発支援助成金は、事業主等が雇用する労働者に対して、職務に関連した専門的な知識・技能を習得させるための職業訓練等を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部などを助成する制度です。複数のコースが設けられています。
ただし、すべての研修が対象になるわけではありません。
訓練内容や対象者、実施方法、申請時期などによって支給対象となるかどうかが異なります。
研修の申込みや開始後では間に合わない場合もあるため、実施を決める前の確認が重要です。
注意したいのは、事前手続きが前提となっている点です。訓練を開始する1か月前から6か月前までの間に、管轄の労働局へ「訓練計画届」を提出する必要があり、「研修を実施してから申請する」ことはできません。
活用したい助成金 ~業務改善助成金~
業務改善助成金は、中小企業・小規模事業者が「事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)」を一定額以上引き上げ、あわせて生産性向上に資する設備投資等を行った場合に、その費用の一部を助成する制度です。
「賃上げ」と「設備投資」がセットになっている点が最大の特徴で、賃上げだけ、設備投資だけでは対象になりません。
介護・障害福祉事業所は、最低賃金に近い水準で働く職員も多く、毎年の最低賃金改定への対応が経営課題になりやすい業界です。
記録業務のICT化や見守り機器の導入など、生産性向上につながる設備投資を検討している場合は、賃上げとあわせて活用を検討する価値があります。
例えば「業務を効率化する設備の導入」「生産性向上につながる機器の導入」「業務負担を軽減するための仕組みづくり」などを検討する際に、制度の対象となる可能性があります。
事業場内最低賃金の引上げと、生産性向上に資する設備投資等を行う取組が対象となります。
助成上限額は、賃金の引上げ額や対象労働者数などによって異なります。
ただし、対象となる設備や経費には条件があります。また、交付申請の受付開始日や取組の完了期間が決められています。
特に注意したいのが手続きの順序です。この助成金は、交付決定を受ける前に設備を発注・購入してしまうと、原則として助成対象外になります。
制度内容や申請スケジュールは変更される可能性があるため、最新情報の確認が必要です。
「知ってから申請」では遅い?助成金・補助金は事前確認が重要
申請のタイミングは、制度活用の成否を左右します。
助成金・補助金では、「いつ申請するか」が非常に重要です。
特に注意したいのは、次のような場面です。
- 新しい職員研修を始める
- 雇用形態を変更する
- 賃金制度を見直す
- 設備を購入する
- システムを導入する
- 新しい事業を始める
このような取組を予定している場合には、実行前に助成金・補助金の対象となるか確認することをおすすめします。
制度によっては、先に契約・発注・購入をしてしまうと補助対象外になる場合があります。
また、助成金についても、取組の実施前に計画届の提出が必要になる場合があります。
つまり、「良い取り組みをした後で、使える助成金・補助金がないか探す」ということでは、多くの場合すでに手遅れです。
そのため、助成金・補助金の活用では、「何かを始めることを決めたら、すぐに制度を確認する」という流れが理想です。
助成金・補助金は自社で申請する?専門家に依頼する?
自社の負担と申請の難易度を考えて判断することが重要です。
助成金・補助金は、事業主自身で申請することも可能です。
ただし、申請には次のような作業が必要となります。
- 制度の対象要件の確認
- 必要書類の収集
- 申請書類の作成
- 就業規則や賃金台帳などの確認
- 事業計画との整合性の確認
- 実績報告への対応
書類の種類が多く、要件の解釈や証憑書類の整合性なども問われるため、特に、日々の利用者対応や職員管理、行政対応などで多忙な介護事業・障害福祉事業の経営者や事務担当者で対応可能か検討する必要があります。
実務上は専門家の関与によってリスクを下げられる場面が多くあります。
「制度を調べる時間がない」「申請漏れが心配」「どの制度が自社に合うかわからない」という場合には、専門家に相談することも一つの方法です。
ここで一つ、正確に押さえておきたい点があります。
キャリアアップ助成金・人材開発支援助成金・業務改善助成金のように、雇用保険を財源とする「雇用関係助成金」の申請代行は、社会保険労務士法により社会保険労務士の独占業務と定められています。
一方、資金調達全体の計画づくりや、ものづくり補助金・IT導入補助金など雇用関係助成金以外の補助金の申請支援については、行政書士や経営コンサルタントが対応できる場合があります。
このように、制度の種類によって適切な相談先が異なるため、「助成金・補助金について相談したい」という場合は、まず自社が検討している制度がどの専門家の対応範囲にあたるのかを確認することが、スムーズな第一歩になります。
なお、制度によっては申請支援を行える専門家の範囲が異なるため、依頼する際には制度と業務内容を確認することが大切です。
「補助金をもらう」から「経営を良くするために活用する」へ
助成金・補助金は目的ではなく、経営改善のための手段です。
助成金・補助金を活用する際に注意したいのが、「お金がもらえるから使う」という考え方です。助成金・補助金は、あくまで経営課題を解決するための手段であり、それ自体が目的になってしまうと本末転倒です。
例えば、自社に必要のない設備を補助金があるから導入しても、その後の維持費や運用負担が大きければ、かえって経営に負担をかける可能性があります。
例えば、「助成金がもらえるから」という理由だけで、本来必要のなかった職員の正社員転換を急いだり、業務に見合わない設備を導入したりすると、助成金を受け取った後もランニングコストの負担だけが残ってしまうことがあります。
大切なのは、「自社の経営課題を解決するために、たまたま使える資金支援がある」という順番で考えることです。この視点を持てているかどうかで、助成金・補助金の活用効果は大きく変わってきます。
助成金・補助金は「探す前に、自社の経営課題を整理する」ことから始めよう
助成金・補助金を効果的に活用するためには、まず自社の現状を整理することが重要です。
例えば、次の項目を確認してみましょう。
- 現在、最も大きな経営課題は何か
- 人材採用・定着に課題があるか
- 職員教育に十分な投資ができているか
- 賃金水準を見直す必要があるか
- 業務効率を改善する必要があるか
- 今後、設備やシステムへの投資を予定しているか
- 新規事業やサービス拡大を検討しているか
このような課題を整理すると、利用できる可能性のある制度を絞り込みやすくなります。
助成金・補助金は数多く存在しますが、すべての制度を調べる必要はありません。自社の経営課題に関係する制度を、必要なタイミングで検討することが重要です。
「課題の整理の仕方がわからない」「自社ではどの制度が利用できるのか」「この取組は助成金の対象になるのか」「いつから準備を始めればよいのか」と迷った場合は、社会保険労務士や行政書士、中小企業診断士などの専門家に相談し、自社の状況に合った制度を早めに確認することをおすすめします。
助成金・補助金を単なる「もらえるお金」と考えるのではなく、人材や設備、業務改善への投資を進め、より良い経営を実現するための手段として活用することが、長期的な事業の成長につながります。
よくある質問
-
創業前でも助成金・補助金を利用できますか?
-
制度によって異なります。
創業予定者を対象とする補助制度もありますが、すでに会社や事業所を設立していることが条件となる制度もあります。
介護事業・障害福祉事業の開業を予定している場合は、法人設立や指定申請、資金調達などのスケジュールと合わせて早めに確認することが重要です。
-
申請すれば必ずもらえますか?
-
いいえ。必ずもらえるものではありません。
要件を満たしていることに加え、事前の計画書提出や手続きの順序を守ることが受給の前提となります。
-
複数の助成金・補助金を同時に利用できますか?
-
制度によって異なります。
同じ経費について他の制度との併用が認められない場合もあります。一方で、目的や対象経費が異なる制度であれば併用できるケースもあります。
複数制度の活用を検討する場合は、事前に併用可否を確認することが重要です。
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制度の内容はどのくらいの頻度で変わりますか?
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年度ごとに要件や助成額が見直されることが一般的です。
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申請は自社だけでもできますか?
-
可能です。
ただし、書類の不備や手続きの順序ミスによる不支給を避けるため、専門家に確認しながら進める事業者が多いのが実情です。
最終更新日:2026/9/1

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