介護事業者・障害福祉事業者のためのキャリアアップ助成金

正社員化・賃上げに活用する方法


「求人を出しても応募が来ない」「せっかく採用したパート職員がすぐに辞めてしまう」—介護事業・障害福祉事業を営む経営者であれば、一度はこうした悩みに直面したことがあるのではないでしょうか。

厚生労働省の調査でも、介護・福祉分野の人材不足は長年の課題として指摘され続けています。
人手が足りなければサービスの質を維持することが難しくなり、既存職員の負担も増え、結果として離職の連鎖を招きかねません。

こうした状況を打開する一つの手段として注目されているのが「キャリアアップ助成金」です。

有期雇用のパート・契約職員を正社員化したり、賃金規程を整備して処遇を改善したりする取り組みに対し、国から助成金が支給される制度です。
有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といったいわゆる非正規雇用の労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化、処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成する制度です。

このサイトでは、介護事業・障害福祉事業を営む経営者・創業者の皆さまに向けて、キャリアアップ助成金の基本的な仕組みから、自社で活用できるかどうかの判断材料、申請時の注意点までをわかりやすく解説します。
制度を正しく理解し、人材確保・定着の一手として活用できるかどうかを見極めていただければ幸いです。

キャリアアップ助成金

介護事業者・障害福祉事業者の最大の壁「人材確保」を助成金で乗り越える

介護・障害福祉サービスは、利用者の生活に直結する対人サービスであるがゆえに、他業種以上に「人」の存在が事業の質を左右します。
しかし、有効求人倍率の高さに象徴されるように、介護人材の確保は依然として厳しい状況が続いています。

こうした中、多くの事業所では人手不足を補うためにパート職員や契約職員(有期雇用労働者)を採用していますが、非正規雇用のままでは定着率が上がりにくく、離職と採用を繰り返す「もぐらたたき」のような状態に陥りがちです。

この課題に対する現実的な打ち手のひとつが、非正規雇用職員を正社員化したり処遇を改善したりする取り組みに対して国が支援する「キャリアアップ助成金」です。
人材への投資を、経営の持ち出しだけでなく公的な助成金を活用しながら進められる点に大きな価値があります。

介護事業者・障害福祉事業者が知っておきたい「キャリアアップ助成金」とは

キャリアアップ助成金は、厚生労働省が実施する雇用関係助成金の一つです。

有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といったいわゆる非正規雇用の労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化、処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成するものとされています。

介護事業・障害福祉事業では、送迎スタッフ、パートの介護職員、非常勤の生活支援員など、有期雇用や短時間勤務の形で働く方が多い業種です。
こうした職員を正社員に転換したり、待遇を引き上げたりする取り組みが助成対象となるため、業種との親和性が高い制度といえます。

制度に定められた終了期日はなく、現在も継続して実施されています。ただし、年度ごとに支給要件や支給額が変更される可能性があるため、最新の情報を厚生労働省の公式サイトで確認しながら申請を進める必要があります。

介護事業者・障害福祉事業者にキャリアアップ助成金が注目される理由

介護・障害福祉業界でこの助成金が注目される背景には、次のような業界特有の事情があります。

  • 非正規雇用比率が高い:パート・登録ヘルパー・契約社員など、有期雇用労働者を多く抱える事業所が多い
  • 定着率向上が経営課題そのもの:採用コストや教育コストを考えると、既存職員の正社員化・処遇改善は離職防止に直結する
  • 賃上げの原資確保が難しい:介護報酬・障害福祉サービス等報酬という公定価格の中で運営しているため、独自の賃上げ原資を捻出しにくい

厚生労働省も、賃金引上げに向けた支援策として「賃上げ支援助成金パッケージ」を打ち出しており、非正規雇用労働者の処遇改善や、より高い処遇への労働移動などを通じて労働市場全体の賃上げを支援する取り組みの中で、キャリアアップ助成金の正社員化コースや賃金規程等改定コースは、事業主が賃上げを検討する際の有力な選択肢として位置づけられています。

人手不足という構造的な課題と、賃上げという社会的要請の両方に応えられる制度として、介護・障害福祉事業者からの関心が高まっています。

また、この助成金が介護・福祉業界で特に注目されている理由の一つに、処遇改善関連の加算取得に向けた取り組みとの相乗効果があります。

介護報酬や障害福祉サービス等報酬における処遇改善加算を取得するためには、キャリアパス要件のクリアや職場環境等要件を満たす必要があります。

キャリアアップ助成金を活用して正社員登用制度を設けたり、人事評価の枠組みを整備したりすることは、結果として加算取得の要件を満たす動きと連動しやすく、事業所全体の労働環境を飛躍的に高めることにつながるからです。

キャリアアップ助成金とは?まず制度の仕組みを理解しよう

キャリアアップ助成金は、大きく分けて「正社員化支援」と「処遇改善支援」の2つの目的に分類され、合計5つのコースで構成されています。

正社員化コースは有期雇用労働者等を正社員化する取り組み、障害者正社員化コースは障害のある有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換する取り組みが対象です。

処遇改善支援としては、有期雇用労働者等の基本給の賃金規程等を改定し3%以上増額する賃金規程等改定コース、有期雇用労働者等と正規雇用労働者との共通の賃金規程等を新たに規定・適用する賃金規程等共通化コース、有期雇用労働者等を対象に賞与または退職金制度を導入し支給または積立てを実施する賞与・退職金制度導入コース、そして有期雇用労働者等が新たに社会保険の適用となる際に労働時間の延長等により労働者の収入を増加させる短時間労働者労働時間延長支援コースがあります。

いずれのコースも、思いつきで職員を正社員化したり賃上げしたりすれば自動的にもらえるものではなく、取り組みを行う「前」に「キャリアアップ計画」を作成・提出しておく必要がある点が最大のポイントです。各コース実施日の前日までに、労働組合等の意見を聴いて作成したキャリアアップ計画等を作成し、提出することが必要とされています。

介護事業者・障害福祉事業者が検討したいキャリアアップ助成金のコース

自社の状況に応じて、どのコースが活用できそうか確認してみましょう。
★具体的な助成金内容、助成額等は厚生労働省のホームページでご確認いただくか、ニア・コンサルティングにお問合せ・ご相談ください。

正社員化コース

1人当たり最大80万円(1事業所当り加算最大80万円)

パート・契約職員などの有期雇用労働者を正社員に転換した場合に支給されます。介護職員や生活支援員をパートから正社員へ登用する場合に典型的に活用されるコースです。支給額は対象者の区分や企業規模によって異なり、現在の制度では、重点支援対象者に該当する場合で中小企業なら1人あたり最大80万円(40万円×2期)、該当しない場合は40万円(原則1期のみ)とされています。

賃金規程等改定コース

1人当たり最大7万円(1事業所当り加算最大40万円)

有期雇用労働者等の基本給を定める賃金規程を改定し、3%以上増額した場合に支給されるコースです。正社員化までは踏み切れなくても、まずはパート職員の賃金を引き上げたいという事業所に適しています。

賃金規程等共通化コース

1事業所当たり最大60万円

正社員とパート・契約職員とで別々になっている賃金規程を、共通の規程として整備した場合に対象となります。同一労働同一賃金への対応を進めたい事業所に向いています。

賞与・退職金制度導入コース

1事業所当り最大66.8万円

これまで正社員のみに適用していた賞与・退職金制度を、パート・契約職員にも新たに導入した場合に支給されます。

短時間労働者労働時間延長支援コース

1人当たり最大75万円

いわゆる「年収の壁」への対応として新設されたコースで、短時間労働者を新たに社会保険の適用対象とし、労働時間の延長等によって収入を増加させる取り組みが対象です。
「もっと働きたいが、扶養の範囲を意識して労働時間を抑えている」パート職員が多い介護現場では、検討の価値があるコースです。

介護事業・障害福祉事業では、どんな場面で活用できる?

具体的には、次のような場面での活用が想定されます。

  • 有期契約で採用した介護職員が、勤務態度・スキルともに問題なく、長期的に働いてもらいたいと考えたとき(正社員化コース)
  • 障害のある方を有期雇用で採用しており、本人の希望や適性を踏まえて正規雇用に転換したいとき(障害者正社員化コース)
  • パート職員の賃金を底上げして採用競争力を高めたいとき(賃金規程等改定コース)
  • 「扶養の範囲内で」と労働時間を抑えていたパート職員が、もっと働きたいと希望したとき(短時間労働者労働時間延長支援コース)

自社の課題がどこにあるかによって、活用すべきコースは変わってきます。

「正社員化すればもらえる」は間違い?キャリアアップ助成金の主な要件

キャリアアップ助成金は、単に「非正規職員を正社員にした」というだけで自動的に支給されるものではありません。
代表的な要件として、次のような点が挙げられます。

  • 事前のキャリアアップ計画の作成・提出が必須であること(取り組み開始前に手続きが必要)
  • 対象労働者について、一定期間以上の雇用実績があること
  • 正社員化後、一定期間以上の賃金支払い実績が必要であること(支給は複数回に分割されるケースが多い)
  • 就業規則や賃金規程における正社員の定義が明確であること
  • 事業主・取締役の3親等以内の親族は原則対象外であること

特に注意したいのが「後から取り組みを申請する」ことはできない、という点です。次の項目で詳しく説明します。

キャリアアップ助成金は「後から申請」では遅い?申請の基本的な流れ

キャリアアップ助成金の最大の落とし穴は、「正社員化してから助成金の存在を知った」というケースでは間に合わないことです。
制度の流れは、おおむね次のとおりです。

  1. キャリアアップ計画の作成・提出(取り組み開始前に必須)
  2. 正社員転換・賃金改定などの取り組みの実施
  3. 取り組み後、一定期間の賃金支払い
  4. 支給申請(取り組み後6か月分の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内という期限あり)

つまり、「良い職員だから正社員にしよう」と決めた、まさにそのタイミングで専門家に相談し、計画書を整えることが、助成金を受け取れるかどうかの分かれ目になります。

すでに正社員化してしまった後では、原則として遡って申請することはできません。

キャリアアップ助成金でよくある失敗・注意点

実務でよく見られる失敗例には、次のようなものがあります。

  • 計画届の提出を忘れて着手してしまう:最も多い失敗パターンです。良かれと思って先に正社員化してしまい、助成対象外になるケースが後を絶ちません。
  • 就業規則・賃金規程の整備が追いついていない:正社員の定義や賃金体系が規程上明確になっていないと、要件を満たせないことがあります。
  • 申請期限を過ぎてしまう:取り組み後の賃金支払いから起算した申請期限を過ぎると、原則として受給できません。
  • 対象者の要件を誤解している:親族を対象にしてしまう、雇用実績の期間が足りていないなど、細かな要件の見落としも少なくありません。

これらの失敗は、いずれも「制度を知らなかった」というより「知っていたが手続きのタイミングを誤った」ことに起因するケースがほとんどです。
だからこそ、正社員化や賃上げを検討し始めた早い段階での確認が重要になります。

キャリアアップ助成金だけではない|介護事業者・障害福祉事業者が検討したい支援制度

キャリアアップ助成金以外にも、介護・障害福祉事業者が活用できる支援制度は複数あります。

  • 人材開発支援助成金:職員研修や資格取得、リスキリングを支援する制度
  • 業務改善助成金:生産性向上のための設備投資と、事業場内最低賃金の引き上げをあわせて行う場合に活用できる制度
  • トライアル雇用助成金:障害者雇用などを一定期間試行的に行う事業主を支援する制度

自社の経営課題(採用なのか、定着なのか、育成なのか)に応じて、複数の制度を組み合わせて活用できないか検討することも有効です。
どの制度が自社に合っているかの判断も、専門家に相談する価値のあるポイントです。

キャリアアップ助成金は、申請前の「確認」が重要|専門家に相談するメリット

ここまで見てきたように、キャリアアップ助成金は「制度を知っていること」と「正しく活用できること」の間に大きな差がある制度です。

  • 就業規則・賃金規程が要件を満たしているか
  • キャリアアップ計画をいつ、どのように提出すべきか
  • 対象労働者の要件を満たしているか
  • どのコースが自社の状況に最も適しているか

これらを事業者ご自身だけで正確に判断するのは、決して簡単ではありません。

社会保険労務士は、就業規則や賃金規程の整備から助成金の申請代行までを一貫してサポートできる専門家です。
また、事業の立ち上げ段階であれば、指定申請などを含めて行政書士に相談することで、経営基盤づくりと助成金活用を並行して進めることもできます。

申請前の段階で専門家に確認しておくことで、「取り組んだのに対象外だった」という事態を防ぎ、確実に助成金を受け取れる体制を整えることができます。

制度を「知っている」から「活用できる」へ。まずは専門家にご相談ください。

キャリアアップ助成金は、介護事業・障害福祉事業が抱える人材確保・定着という根本的な課題に対し、国の支援を活用しながら取り組める制度です。しかし、その効果を最大限に引き出すには、正しいタイミングでの計画届の提出と、自社の就業規則・賃金規程の整備が欠かせません。

「うちの事業所でも使えるのだろうか」「どのコースが合っているのか分からない」—そう感じた今この瞬間が、専門家に相談する最適なタイミングです。

私たち、ニア・コンサルティングは、介護事業者・障害福祉事業者様の実情に即した助成金活用のご提案から、就業規則の整備、申請手続きまで一貫してサポートしております。まずはお気軽にお問い合わせください。


よくある質問

介護事業者・障害福祉事業者でもキャリアアップ助成金を利用できますか?

はい。介護事業者・障害福祉事業者だから対象外ということはありません。

キャリアアップ助成金は、一定の要件を満たす雇用保険適用事業所の事業主が対象となります。社会福祉法人なども制度上の対象となり得ます。

また、障害のある有期雇用労働者等を正規雇用労働者等へ転換する場合には、別途「障害者正社員化コース」もあります。

ただし、実際に支給を受けるためには、各コースの要件を満たす必要があります。

これから開業する事業者でも活用できますか?

開業後、有期雇用労働者を雇用し、要件を満たす形でキャリアアップ計画を作成・提出すれば活用の可能性があります。

開業準備の段階から専門家に相談しておくとスムーズです。

すでに正社員化してしまった職員は対象になりますか?

原則として、キャリアアップ計画の提出前に実施した取り組みは対象になりません。

今後正社員化を予定している職員がいる場合は、実施前にご相談ください。

どのコースを使うべきか分かりません。

自社の課題(正社員化を進めたいのか、賃上げをしたいのか、社会保険の壁への対応をしたいのか)によって最適なコースは異なります。

専門家との面談を通じて整理することをおすすめします。

自分で申請書類を作成することは可能ですか?

制度上はご自身で作成・申請することも可能です。

しかし、就業規則の法的な整合性の確認や、複雑な賃金計算の証明など、専門的な知識が求められる場面が多く、書類の不備で不支給となるケースも後を絶ちません。
確実な受給と労力削減のために、多くの事業者様が専門家を活用されています。

本記事は2026年9月時点の情報に基づいています。制度の詳細・最新の支給要件については、厚生労働省「キャリアアップ助成金」公式ページをご確認いただくか、専門家までお問い合わせください。

最終更新日:2026/9/10